コラム第14回

【ちょっと経済の話】

円安、円高の仕組み

今日は少し趣きを変えて経済のお話をします。

企業経営者の皆さんは今、円安が進んでいることをご存じのことと思います。
最近では手軽にできるFXなどもあり「為替」について知識を持つ人が多くなっているように思います。
でもなぜ円高になるのか?円安になるのか?不思議に思われたことはありませんか?

今日はその仕組みについて少しお話したいと思います。
当たり前の話ですが買いたい人がいて、売りたい人がいることで値段が決まります。
これを需給バランスと云います。

買いたい人が多ければ物の値段が上がり、売りたい人が多ければ物の値段が下がる極めて単純な話です。
「需要」が多いということは買いたい人が多いことを意味し、「供給」が多ければ売りたい人が多いということです。

現在円安が進んでいますがこれの意味するところは、円を売りたい人が多くドルを売りたい人が少ない。
別な言い方をすると円を買いたい人が少なく、ドルを買いたい人が多いということになります。
為替を見るときに、円から見た時、ドルから見た時では逆になるので、そこで少し混乱することがあると思います。

為替相場は国の通貨の価値を国際市場で決めているので、実際には様々な国の通貨が相対的に変動することになります。
これを「変動相場制」と云います。

一部の途上国や共産国家などでは「固定相場制」を取り入れている国もありますが、国際社会では特例の国であり、平等な貿易関係を築くことは叶いません。
実は日本も戦後、固定相場制(1ドル=360円)を導入していました。
固定相場にすることで貿易の国際競争力の優位性を保つこと、国内の産業保護を目的としていました。
日本では1973年2月変動相場に移行して現在に至っています。
前に為替の価格は需給関係で価格が決まると云いましたが、国同士の通貨の需給とは何を指すのでしょう。
日本と米国を例に取り上げてみます。
まず公定歩合というものがあります。
公定歩合は日本では日銀、米国ではFRBが決定しています。
いわゆる「中央銀行」と呼ばれる銀行です。
一般的には国が運営する(国営)銀行として認知されていますが、実際の資本は民間の銀行が株主として運営している民間の銀行です。
但し中央銀行には他の銀行とは全く違う機能があります。
それはその国のお札を発行する権利を持っている点です。
通貨発行権と云われる資格を有する銀行は日本では「日本銀行」、いわゆる「日銀」と云われる銀行であり、米国では「FRB」が通貨の発行権を持つ唯一の銀行です。
中央銀行の制度について書いていくと長くなりますのでまたの機会にします。
そして中央銀行の持つもう一つの権限が、基本的な金利を決定する公定歩合を決定する権限です。
この公定歩合によってその国の中で行われる金融取引、つまり市場の金利が決定することになります。
現在、日米の金利差は約2%程度あります。
この2%の金利差が現在の円安を招いているといっても差し支えありません。
尚且つ今後FRBは年末までの間に金利の引き上げを行うことを発表しているので、おそらく年末に向けて円安の圧力は続くことになります。
米国でドルでお金を銀行に預けると2%の金利が付くのに、日本ではほぼ0です。
そうなればお金のある人は米国の銀行に預けるので持っている円をドルに交換する、つまりドルを買うことになるわけです。

為替相場を動かす要因にはもう一つ大きな要素があります。
それは通貨を発行している国が不安定な状態、戦争・ハイパーインフレ・債券のデフォルトの可能性などのその国の「信用不安」が起きると、その国が発行する通貨の信任が揺らぎ売られる場合です。
直近ではウクライナ戦争を起こしたロシアのルーブルが非常にわかりやすいケースです。
「ロシア・ルーブル」下落のニュースをご覧になった方も多いと思います。
ウクライナ侵攻後、欧州、米国の経済制裁が決定したところでルーブルが大暴落しました。
対円で見ると1ルーブル=1.6円程度であったものが、2日程度の間で0.8円まで下落しました。
つまり約半分に通貨の価値が落ちたことになります。
それに対しプーチンは何と公定歩合を一気に20%まで引き上げることで対抗しました。
するとたちまちルーブルは対円で1.5ルーブル程度まで価値を上げました。
一部には通貨のレートだけを見て欧州、米国の経済制裁は効いてないためにルーブルが持ち直したと評価してますが、実際には公定歩合が20%まで引き上げられたことでこの20%の金利を取りにいった金融筋があったと考えるのが正しいでしょう。
つまり金利が高ければ通貨の価値が上がることを証明しています。

ただ経済の全体のバランスを考えるとこのプーチンの政策は間違いなく悪手です。
ロシアは経済成長率、GDP、インフレ率を見ても経済が決して好調とは云えません。
そんな国が20%の金利などにすれば国内の企業は借入をして投資するどころか、借入している金利負担で経営が成り立たなくなります。
また市中に流通するお金(マネーサプライ)が急激に少なくなり景気が悪くなることは必定です。
するとロシアの通貨に対する信認が揺らぎおそらく数か月でルーブル安を招くことになります。

ロシアのケースは特異なケースでありますが、公定歩合によって為替レートをドラスティックに動かすことは可能であることを示しています。
ただ政策金利(公定歩合)を急激に動かすことは様々な経済的波及が起こるので、それぞれの中央銀行は非常に慎重です。
ですのでケーススタディとしてロシアの今後の為替は注目に値すると思います。

結論として「為替」は第一に需給、 第二にファンダメンタル(その通貨の国の経済の強さ、国際的経済環境、評価)によって相対的に変化することを基本として理解しておくことが重要です。

令和4年4月20日執筆

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